桜井 厚(日本ライフストーリー研究所 所長)

うっとうしい梅雨空が続いていますが、お変わりありませんか。
先日、無事、本研究所の設立総会を終え、いよいよ本格的な活動を始める体制が整いました。
これもひとえに、まだ先行き不透明な研究所にもかかわらず研究所会員になっていただいたみなさまのご支援のおかげです。
厚くお礼を申し上げます。

さて、このニュースレターの創刊にあたって、本研究所の設立を思い立った理由を一言述べておきたいと思います。
まず、質的データのアーカイブ化の拠点づくりがあります。
この数年、ライフストーリーやオーラルヒストリーなどの質的データの保存・管理の状況を調べてきました。
その結果、調査者自身がそれぞれ自分の質的データを抱え込んでいる状況があきらかになりました。
たしかに質的データは個人情報が入っている可能性がありますから公開しにくい事情があります。
しかし、データの内容によるだけでなく、調査者自身が、自分だからこの話をしてくれたのだから自分だけのデータとして抱え込む傾向もあるようです。
量的データのアーカイブや二次資料としての利用は比較的整ってきているのに対して、質的データのアーカイブは、わが国ではまだまだこれからの課題であるといえるでしょう。
そのための一つの試みとして、質的データのアーカイブの拠点があれば、各地、各人のデータ・アーカイブとリンクすることが可能になるのではないか、と考えたのです。

個人的な理由もあります。
私は仲間と共にほぼ四半世紀にわたって被差別地区のライフストーリーを聞いてきました。
多くのテープがあり、また文字おこしのデータがあります。
これらの膨大な資料を整理し二次資料と利用できるように整理しておきたい希望もありました。
また、わが国でライフストーリー研究の端緒を拓いた中野卓先生の調査資料を預かっているため、その整理も必要です。

さらに所属先の問題もあります。
なによりもライフストーリー・インタビュー調査はまず人との関わりが基本です。
所属がないと自分が何者であるかを相手に理解してもらうにも困難を感じることがあります。
また、調査者の個人的な連絡先を被調査者に知らせることに抵抗感を持つ人がいるかもしれません。
設立者のような定年退職者だけでなく、若い研究者の中には所属先がなくアルバイトで研究生活を送っている人も少なくなりません。
そうした人たちの所属先にもなり、併せて研究会などをとおして調査や研究の交流の場を提供できるのではないか、とも考えています。
私自身は、そのための努力は惜しまないつもりでいます。

kenkyusyo (5)こうした思いは、もちろん会員のみなさまの協力とご支援があってはじめて実現できるものです。
今後、会員のみなさまとともに、これまで語られなかったさまざまな声に耳を傾け、対話を促す手法を学び、語りの分析、解釈の方法を考える場を創っていけることを楽しみにしています。