JLSR 誕生秘話 (ニュースレター vol.01より)

岸 衛(日本ライフストーリー研究所 主任研究員)

2015年6月21日、「日本ライフストーリー研究所」が誕生した。

「ライフストーリーやオーラルヒストリー関係の本などをまとめて、そこで研究会などやって、若い研究者が勉強できるような所、創るっていうのは、どう?」

「確かに今までの調査データなど、1箇所にまとめて置いて、使いたい人が自由に見られるような場所があったらいいなぁ」。

そんな会話からはじまった。
桜井さんが、そう思いかけたきっかけは、たぶん、私たちが昨年11月末に市立水俣病資料館や(財)水俣病センター相思社・水俣病歴史考証館を訪れたことだったと思う。
経験をどう語り伝えるか。あった出来事をどう次世代に残すのか。

ふたりの胎児性患者が発病して水俣病として認定されたのは、1956年。それから60年、様々な形で「語り継がれ」てきた。
今も、「語り部」「語り継ぎ部」などを通して、熊本県内の小学生たちは学んでいる。
水俣病歴史考証館では、若い学芸員の人が、展示してある写真や資料を見ながら、われわれに「語り継いで」くれていた。
この度の私たちの水俣訪問のもう一つの目的は、不知火海総合学術調査団の団長をしておられた色川大吉さんの当時の資料、記録、聞き取りテープなど、段ボールにして14箱の「色川記録文書」を、どこでどのように保管し、提示するかを、探すためであった。

実際は、もうすでに色川さんの了承のもとに「水俣市立水俣病資料館」に,保管されることが決まっていたので、館長さんに出会って、話をすること、さらに、水俣を「語り継ぐ会」の吉永夫妻に会うことが目的であった。
そんな旅の中で、今までの私たちのフィールドでのインタビュー調査をひとつにまとめたい。
また桜井さんにとっては、オーラルヒストリー、ライフストーリー分野の社会学的な文献やインタビューの方法論などを、若い研究者に「伝えたい」という思いがあったに違いない。
だから、集められたデータや資料、文献をどのように保管し,提示すれば、若い研究者に、正しく受け継がれていくか。
これが私たちの研究所のこれからの大きな仕事だと思っている。

そういうわけで、さっそく桜井さんは、ネットで物件を探し出した。
年末年始は、この構想で頭の中がいっぱいだったに違いない。
紀要の原稿、報告書などの提出期限が迫るこの時期、「長坂の駅前にいいのがあった。白州の方にいいのがあった」とぼくにもネットで見るように言う。
「早くしないと売れるかもね」。
桜井さん、なぜか焦っている。
ぼくは「そんな簡単に売れないよ、冬だし、みんな行かないだろう」と。
1週間後、「岸さん、長坂の物件、もう売れていたよ。あそこよかったんだけどな。逃がした魚は大きい」。
「また、いいのがある」
…そしてなんと1月19日には不動産業者立ち会いで、いくつかの物件を見に行った。
最後に紹介してもらったのが、この研究所になったわけである。

冬で、まだ雪が周りに残っていた。
天気はよかったし、葉っぱを落としていた木々の合間から、八ヶ岳や甲斐駒も見える。
庭もこれだけあって、家の周りには、枕木を敷き詰めたデッキがある。
1階はワンフォロアーだが、書棚を置いて、なんとか研究会もできる。
2階には和室が2間。
「泊まれるね」と桜井さんが言う。

そして一般社団法人の定款を作り公証役場に事前チェックを受け、3月末には正式に物件の引き渡しが済み、4月3日に公証役場で一般社団法人としての承認を受け、その後甲府の法務局で、申請を行った。
この一連の作業は全部、桜井さんがやった。
ぼくは3月末から4月はじめにかけて、引き渡しの後、研究所の掃除をして、和室も雑巾でから拭きして掃除機をかけ、1階のフロア、トイレ、風呂を磨いた。桜井さんは,その間、庭の重い枕木を運んで、駐車場の確保などをしていた。

そうして何とか、研究所の「場」を作った。
買ってきた郵便受けを組み立て、テプラーで住所と研究所の名前を貼り付けた。
次世代に「語り継ぐ」ために何かを残さなければならないという「夢」はけっこう早く現実のものとなった。
「場」はできた。
あとは、中身である。

設立後は正直、不安の方が大きい。
書籍やデータの整理や一覧表にして検索できるようにするのは、気の遠くなるような時間がいるように思うからだ。
入会していただいた方がほんとうに研究の場として使っていただけるのか。
研究でなくても「ここに」身を置いて周りの自然を楽しんでもらってもいい。
でもはたしてどれだけの方が来てくれるのか。

それでも、まずは知っていただくこと。
北杜市の高原の中に、「日本ライフストーリー研究所」あることを、まず、知ってもらうこと。
そしてこの1年かけて、なんとか、この研究所の建物を「それらしく」することが大事だと思っている。
是非是非、ご協力をお願いします。

(8月12日修正)

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