LS研究会レポート(2019年8月夏期研究集会)漁の近代化と伝統漁業を続ける後ろめたさ

漁の近代化と伝統漁業を続ける後ろめたさ――突棒漁をやめられない漁師のライフストーリー

報告:吉田 静

日時:8月日13:00~14:40
場所:JLSR研究所

1.報告内容
『語りの地平』へ投稿中の論文の内容をもとに報告を行った。本稿では、岩手県上閉伊郡大槌町の伝統漁業ともいえる突棒漁をやめられないと語る漁師のライフストーリーを通じて、漁業が近代化してきた時代のなかでの突棒漁の変化と突棒漁を続けることの意味を考察してきた。漁業の近代化は、かつての漁業のありようを変化させる結果となり、長年漁に携わり続けてきた漁師の価値観を過去のものとして認識させる状況を生んだ。加えて、漁業が大規模化していくことにより、突棒漁を行うことへの風当たりも強くなっていった。そのなかで、突棒漁を続けていることについて、漁師は、自分が「好き」だからという個人的な理由として語るが、自分がこの漁をやりたいというだけでなく、突棒漁を残していきたいという思いがあることも明らかとなっている。そしてこの漁師が残したいと願う突棒漁は、単に突棒漁と呼ばれる漁業のことだけではなく、技や価値観などの、かつての突棒漁が内包していた漁師としての美学を含みこんだものであったと考えた。しかし、時代の変化のなかで 突棒漁への価値観も変容し、突棒漁の魅力を積極的に語ることが難しくなっている状況もあると報告した。

2.質疑応答
【「後ろめたさ」について】
・伝統漁業を続ける「後ろめたさ」は、語りに表れているものなのか、それとも筆者の解釈なのか?
→筆者の解釈。ただ、タイトルでは「伝統漁業を続ける後ろめたさ」となっているが、突棒漁の魅力を積極的に語ることの後ろめたさということが書きたかったように思う。
・続けることの後ろめたさと魅力を語ることの後ろめたさは混同せずに書く必要がある。
・後ろめたいと感じていることを示す具体的な語りを示す必要がある。(例えば、語りづらそうにしている様子など)
→「後ろめたさ」については要検討する。
・報告をきいていて、(A さんの語りからなのか、筆者の描き方のためなのか分からないが、) 寂しさや寂しさのようなものを感じた。
・「後ろめたさ」よりも、「悲しさ」や「哀愁」の方がしっくりくるのではないか。

【語りの記述について】
・筆者が論じる上で重要なところを、トランスクリプトを抜き出して浮かび上がらせる方が、説得的でわかりやすい。繰り返しになる内容は、トランスクリプトを引用しなくてもよいと思う。(例えば、P.16 の最初の語りなど)
・A さんの語りが引用されているが、聞き手はどのように聞いたのか。
→トランスクリプトでは、筆者が相槌しか打っていない箇所が多く、読みやすさを考えて抜き出していない。
・積極的に語りがたいということを述べる時に、語り方の違い(トーンや語り手の様子)を示すことで説得的に記述することも可能。

【先行研究との関連/楽しみや美学について】
・結論は何か。
・これまでのマイナー・サブシステンスの議論との差異化が必要。(+先行研究の箇所に突然、経済的な側面が出てくるが、文脈がずれるので、註に落とした方がよい。)
・A さんが「好き」と語る背景とは何で、それから先行研究とどのように違うことが見いだせるのか。マイナー・サブシステンスについての 3 人の議論に対して、A さんのライフストーリーを通して何が言えるのか。
・「楽しみがねぇ」と語るところの「楽しみ」とはどういうことなのか。
・年齢的に儲からなくても大丈夫な状況にあるから、マイナー・サブシステンス化して続いているのではないか。(でも、「余生の楽しみ」と言ってしまわずに記述する。)
・男性性を強く感じた報告だった。美学というものは時代によって異なるような時代性を持つものなのではないかと考えた。
・楽しみや美学に落とし込む一方で、楽しみや男の美学を相対化する要素(おしゃらく漁師)も必要。A さんの価値観を担いつつも相対化した視点を持つ。周りの人(家族など)の反応なども含められるとよい。

【そのほか】
・大槌町で突棒漁について調査を始めたきっかけはなにか?
→大学院の授業で訪れたことがきっかけ。
・インタビューはなにから聞き始めたのか?どういう流れで聞いたのか?
→初めてのインタビューは、まずオットセイ漁について聞いて、その後話を広げていったが、必ずしも時系列に聞いていったわけではない。
・突棒漁の経済的な側面について、具体的なデータ(数字)はないのか。(釜石市は比較的データはしっかりとある)
→手元にはないので、これから釜石市などで調べる。
・魚種によって語り方の比重に差はあるのか?(イルカについての具体的な語りの引用が印象的だった)
→A さんの語りでは、違いはあまり感じられなかった。(別の突棒漁師は、イルカとカジキの違い(カジキの方が良い銛を使うなどの話)について語っていたことはあった。)
・「格好がいい」というのは、自分から見て格好がいいということなのか。
→魚を目の前にして、自らの腕で銛を投げて魚を突く漁なので、突棒漁という漁自体が格好いいと思っているのではないかと思う。

【説明不足/文章の表現について】
・千葉の会社を退職した理由・経緯について説明がある方が分かりやすい。
・「80歳を過ぎて」という説明が多すぎるので、必要なところにのみ記載する。
・息子さん夫婦についてもう少し説明が欲しい。
・A さんのライフストーリーの概略が最初にある方が読者に親切(3、4 行)。

(作成:吉田静、web版編集:JLSR研究所)

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