【研究所発行】『ライフストーリー研究の鍵となる<私>』

桜井厚(編)『ライフストーリー研究の鍵となる〈私〉――「対話的構築法」の調査研究実践』日本ライフストーリー研究所
本書は、日本ライフストーリー研究所創設10周年を記念し研究所より出版されました。

本書の構想
本研究所では、通常例会において会員個々人の個別研究の報告を行うだけでなく、特別研究会としてライフストーリー研究法そのものに対する研究会を非会員の方を交えて行ってまいりました。本書は特別研究会を契機として”ライフヒストリー研究考察上の重要なファクターとしての〈調査者としての私〉”をキーワードに構想されたものです。

本書の特徴
本書では、ライフストーリー研究を行ってきた執筆者13名が、調査研究を進める過程でインタビューやライフストーリー分析などで直面した苦悩や工夫、悔恨や反省、そして研究のおもしろさや楽しさなどの経験を振り返り議論を展開しています。執筆者13名は扱うテーマも学問領域も異なりますが、言語教育・看護・社会―文化研究のさまざまな分野でのインタビュー経験が綴られています。
本書で紹介された経験は、おそらくこれまでライフストーリー研究を試みた人に共通するものではないかと思われます。そうした人は「ある、ある」と共感をもたれるに違いありません。あるいは「私とは少し違うな」と違和感を抱く方もあるかもしれません。いずれしても、すでに研究経験を積まれている方々には、本書の論稿群が、研究者のライフストーリー研究経験・インタビュー経験について、あらためて見つめ直す新たな観点や視覚へ刺激を与えるものとして研究の深まりに寄与できれば幸いです。
一方で、ライフストーリー・インタビュー未経験の方や、これから始める人には「なるほど」と、調査の準備や分析に大いに参考になると思われます。本書の論考にはライフストーリー研究の醍醐味である他者との出会いの喜びや取材の楽しさから、研究上の苦悩や行き詰まりまで赤裸々に述べられています。ぜひ知っていただきたい喜びや楽しさに加え、苦しさや悩みにも注目いただければと思います。苦しさや悩みはできるだけ避けたくなるものですが、少なくともライフストーリー・インタビューの経験では、楽しさも含め苦しさそのものも研究手法の考察の契機として、研究者に何かを与えてくれます。ライフストーリー研究が抱える他者の経験をいかに受け止め、他者とどう出会い向き合うのかという課題の奥深さを、みなさんと共有できれば幸いです。

目次構成

本書の目次内容は以下の通りです。

第1部 ライフストーリー調査の方法
1.ライフストーリー研究における対話的構築法の視座   / 桜井厚
2.ライフストーリーを聞く調査者としての〈私〉の問題  / 山本佳世乃

第2部 言語教育の現場から異文化理解へ
3.留学生の「個」が立ち上がる〈対話〉の可能性     / 寅丸真澄
4.「抵抗の語り」に出会うことの重み          / 中川康弘
5.「構え」はどのような語りを生み出すか        / 佐藤正則
6.長期反復調査から見る〈私〉の変容          / 荻原まき

第3部 病いと看護のフィールドから
7.精神科看護師のライフストーリー・インタビュー実践  / 伊藤文子
8.調査者の自己の「動揺」とフィールドワーク      / 齋藤公子
9.私は何者だったのか                 / 早藤夕子
10.語りに照らされる聞き手のライフ           / 河野義貴

第4部 社会・文化の理解に向けて

11.なぜ、この語りを使用しなかったのか         / 池上賢
12.インタビューのつまらなさと調査者の懊悩       / 山本哲司
13.「当事者の時代」にライフストーリー研究者は何ができるのか/ 西倉実季
14.調査研究者の隠された特権              / 桜井厚