色川大吉『わが半生の裏街道-原郷の再考から』

(河出書房新社 2017年6月)


(研究所facebookページからの転載)
先日、夜になってドアをたたく音がする。こんな山里に滅多に人は訪ねてこないので、慌てて2階から降りてドアを開けたら色川大吉さんがいた。本ができたから届けに来たという。
92歳になる。しかも、数ヶ月前には入院するほどの大病を患ったばかりである。以前にも別の本を紹介したことがあるが、このところ、毎年、1,2冊の著書をものにしてしている。一向に出版には至らない我が身を微かに恥じながら、一度、研究所で自分史の名付け親である色川さんの座談会でもやりしょうよ、と声をかける。
本書は、「裏街道」となっているが、色川さんの生家の家族や親族、腕白な子ども時代、東大から学徒出陣、敗戦後は山村教師から新劇の劇団員になり、その後、30代で歴史研究者として第二の人生を歩むまでの自分史である。「半生」の記録というか、三分の一の軌跡だが、その人生の変転そのものも今の世代ではなかなか実感できない経験ではないかと思う。
それにしても色川さんの、ちょっと破天荒なおもしろさときまじめさの同居、その徹底的な行動力には驚かされる。戦前の皇国思想に同調していく側面とちょっと迷ったところが見て取れ、また戦後の思想状況も垣間見られて、やっぱり時代とともに、その先端を走ってきた人なんだな、とあらためて確認したのだった。(桜井)