例会レポート(6月) ライフストーリー研究会

4相の連続関係としてのカリキュラム概念
-コア・カリキュラムと三層論をめぐる元教師インタビューを手がかりに

金馬国晴(横浜国立大学)

1) 用語の定義(コア・カリキュラム、問題解決学習など)。
専門外の方に向けては、丁寧に説明を書き込む必要を感じた。また、インタビュー対象者(インタビューイー)の言葉にしても、研究者(インタビューアー)との共通認識がある場合にも、読者にとっては知らないことがあるので説明がいる。
とはいえ、研究者とインタビュー対象者の定義が実はズレている場合もあるので、その場合は注意して分析を加えて、説明する必要がある。

2) 学校のカリキュラムの全体構成というものの必要性を主張するものだが、現在に関する研究ではなく、戦後初期の研究をするのはなぜか。対象者を元教師(高齢者)にすえてインタビュー調査をすること自体の意義から、説明をしなければならない。

3) 数十名へのインタビューによって何らかの共通性を見出す、という課題ならば、理論的飽和をねらわなければいけないのではないか。

今まで50名ほど、機縁法で探してインタビュー記録を増やしてきた。桜井先生の見解では、それはめちゃくちゃ多いの数字であり、ベルトーの説では25人が目安とのこと。

インタビュー対象者である教師によって全然語りが違う、ということは十分に示せる人数である。

4) 私は院生時代は、思想史、論争史で研究を進めてきた。だが、それでは不十分だと気づき、当時の教師にインタビューを進めるようになったが、そうすることで、当時の彼らが、本や雑誌が書かなかった現場特有の問題に悩んでいたことが分かってきた。

問題は「形式化」(物象化)というものであり、カリキュラムというものを計画する(図・表にしたり冊子にまとめる)ことが難しいこと、それらを作るだけで力尽きて実践に移さなかった例があったこと、いったん計画することで「固定化」してしまい縛られたこと、などである、とわかってきた。

当事者に聞き取ることで見えてきた問題や、または詳しく実感を込めた言葉でわかってきた問題があったのである。

5) 先行研究は、カリキュラムの図表(カリキュラム構造)について主に議論してきた。
そこに、インタビューから分かる「教師の経験」を加えることで、カリキュラムの定義を厚くしていくことをめざしたのである。
さらに、教師の「カリキュラム経験」という新しい概念を提案するものである。
ただし、それが戦後初期という時代には、特にどういう特徴があったかという特殊性に関する言及もいる。

6) カリキュラム経験という概念を、一つの大きな主張として出してくることには、多くの教師にインタビューするかの問題ではなく、「実際の経験」の詳細が重要なポイントになる。
説得的に言えればいい。いかに教師が苦労をして「自分なりの」カリキュラム(計画)を各校で作ってきていたかを提示していく。

7) 論文では、丁寧な記述をしていけばいい。逆に、要約的にするとよくわからない。
いろんな書き方の工夫は必要。
例えば、ある「コンテキスト」を作った上で、A先生がどう語って・・といろいろな方面から整理していく。その人の人生に関わるような流れを出すべきときには、その人個人を採り上げていき、彼/彼女の「アイデンティティ」を描く。
ある特定の項目については、AもBも、と「切片化」して並べ、語りを整理していく。一つ一つ論を立ててから、整理していく。そのことに言及していない人もいるので、全員を引用するわけではない。引用する切片には「差異」があっていいしその方がいい。AとA’と・・。そのズレこそ経験の特色。

8) 理論的な考察を絡める場合。
「そういう語りを、自分は○○と解釈した。」と書けばいい。
恣意的に理論を作って語りを切るのでなくて、一人一人の語りを活かすことによってわかってきた、という流れで。
問題が見えていない場合は、語りの中から理論を見出すわけだが、今回の場合は逆。
「経験がもっている重さ」の方を強調する。経験はもっとおもしろい、と強調する。
この研究では問題が見えているので整理すればよく、かつ経験がもっているインパクトを強調する。歴史的な背景をもって。こんなふうに語られたということで。

9) 3例や5例でも、「10例やっている中で特徴的だから」といえればいい。

10)機械的な項目立ては考え直した方がいい。
インタビューをもとにした場合は、「整理の仕方」が違ってくるはず。経験の中で見えてきたことを整理する枠組みを。

11) この研究は「オーラルヒストリー」にあたる。特定の事象に焦点化し、歴史のある経験をとらえている。
「ライフヒストリー」と称すると、今の時点で、現在と過去に触れることになる。相互行為的でなくても今だから、当時そう思っていた、といわなければならなくなる。「ライフ」という人生の幅を含めて聴く。その前までどう暮らしてきて、今に至っているのか。断片の一言であっても、ライフストーリーにはなる。
対して、「聞き取り」とは、自分に必要なテーマだけになる。