学会レポート 「経験社会学はなぜライフストーリーを必要とするか」(第63回関東社会学会)

6月7日、関東社会学会があって、ゲストスピーカで招かれた。といっても、メインのゲストスピーカーは、ダニエル・ベルトー氏で、ぼくは花(とても花とはいえないが)に添えられたに過ぎない。彼は世界的に著名なライフストーリー研究者である。会場である千葉大学へほとんど10年ぶりに出かけた。
 打ち合わせを終えて、いよいよセッション開始。ベルトーさんは自らのライフストーリーの調査の成果を述べていく。通訳付である。話し始めるときに、図々しくも横からパチリとやったのがこの写真。彼とはライフストーリーの考え方が違うのだけど、彼の主張はよくわかっているつもり。サブタイトルが「ダニエル・ベルトーと桜井厚の対話」という気恥ずかしいものなので、せっかくだからとひとつ質問をした。一人のインタビュイーへ深く聞くことは調査研究と認められるか、と聞くと、穏やかな口調で、探索的には可能だが一般化は無理と、予想どおりの応えだった。あとで仕掛け人の小林多寿子さんが、あれは爆弾質問で、彼を「とんでもない」と怒らせる質問だと、あとでこっそりと教えてくれた。あすフランスへ帰途につくという。「おわった」感が強い。
 P1060335 写真は、ベルトーさんのは報告が始まる直前を横からパチリ。
 以下、レジュメである。

テーマ部会B:自己/語り/物語の社会学・再考 2015年6月7日(日)15:45~17:45
経験社会学はなぜライフストーリーを必要とするのか
――ダニエル・ベルトーと桜井厚との対話――

ライフストーリー研究のフィールドワークから見えてきたもの
桜井 厚

1.はじめに
 ベルトー先生から学んだこと
1) ライフストーリーの用語
2) 社会調査過程の方法全体の再検討

2.影響をうけた研究者あるいは社会学理論
1) 中野卓先生との出会い
2) Alfred Schutzの応用理論
3) その他
あくまでもフィールドワークの現実をライフストーリー研究の方法論で解読するのにあたって、役に立つ部分や概念。経験社会学としては、常に、フィールドワークとライフストーリーのトランスクリプトというデータをもとに解釈するのが基本

3.ライフストーリーの方法論が鍛えられたのはフィールドワークをとおして
1) 琵琶湖で環境問題の調査チームではライフヒストリー調査
2) 被差別部落のライフストーリー調査
自分自身が何者かが問われるような事態
①非対称性
  構造的非対称性/相互行為的非対称性、倫理の問題
②調査者の構えと相互行為
③語りの構造
・ストーリー領域/物語世界:現在(ストーリー領域)/過去(物語世界)
④対話的構築主義
⑤物語世界の語りの形式
   パーソナル・ストーリー、イディオム/モデル・・ストーリー、マスター・ナラティブ
 
4.ライフストーリーのリアリティ解釈: 考えられるコンテクスト
①調査者の構え:調査者のカテゴリー化
②非対称性:語り手のカテゴリー化
③語りの一貫性:矛盾や亀裂の有無。内的/外的、アイデンティティ
④語りがたさ、沈黙:トラウマ性、スティグマ性、構造的、相互的行為的、
⑤語りの様式: コミュニティや社会に流通する語りとの関係
⑥叙述:誰に向かって語り記述するのか。調査倫理との関連をふまえて。

経験社会学にとって、つまりフィールドワーカーにとって、方法論や理論は理論のための理論としてあるのではではなく、このぐらいで人びとの世界を理解するのに十分だという妥当な理論や方法論の水準があるのではないか、ライフストーリーの方法もフィールドにとって適合的なものが工夫されてしかるべき。それは、どのコンテクストを強調するかに関わる。